クロスセルは必然
当社は、エンジニア派遣やパートナー企業の調達を行うシステム開発事業と、エンジニアを育てる教育事業を手がけています。もともと開発事業だけを手がけていましたが、リーマンショックのときにマーケット全体の案件が激減。少ない案件を競合他社から勝ち取らなければならない状況になりました。
そこで、エンジニアの紹介面談で抜きん出るために、若手エンジニアに社内研修を実施し、スキルアップや資格取得を薦めました。研修には、パートナー企業のエンジニアにも参加してもらったのですが、エンジニアの質が上がったと受注案件の数を回復させることに成功。パートナー企業からも「有料でもいいから、ぜひ継続して研修を」という声を受け、教育事業がスタートしました。
私が開発事業の営業部の責任者になったのは、6年前です。そのころ問題になっていたのは、開発事業と教育事業のお客様がバッティングすることでした。それぞれの事業が別々の顧客管理をしていたことが原因でした。そこで、開発事業主体でデータベースを統一することにしました。私は当時開発事業にいたので、教育事業のデータベースがブラックボックス化していて、そのままでは生かせないことも課題でした。
システム化する前は、Excelで3,000社程のデータを机に並べて突き合わせていました。ただ、これでは埒が明きません。そこで、当時、教育事業が使用していたクラウド型のWebサービスを利用してみよう、ということになりました。ただ、使ってみるとSFA側のことができず、カスタマイズひとつするたびに結構な金額になることが判明。それはちょっと見合わないなと思い、別のシステムを探しました。
他方で、営業部では名刺管理のシステムが必要という話が持ち上がっていました。そこでSansanを知ったんです。最初は正直、高いなと思いました(苦笑)。でも、説明会に2~3回通って吟味するうちに、「名刺の問題も解決するし、SFAとしても使え一石二鳥かもしれない」と思うように。そこで役員に稟議を上げました。
導入したのは、2015年です。とにかく現場がシンプルで使いやすいように、コンタクトの項目はプルダウンで選ぶだけにするなど、設計にはこだわりました。
導入のためのSansanのセミナーにも通いました。実際、実用的な設定を行うのは難しかったですね。
そんなふうに準備に手間をかけたこともあり、運用開始は一気にできました。少々荒っぽい導入の仕方でしたが、現場は名刺が溜まって困っており、特に抵抗はありませんでした。ただ、周知に際してはシンプルで営業メンバーの業務負荷を下げるシステムであることを強調しました。
特にOne to Oneメールは現場にとって大きなメリットがありましたね。Sansan導入前は、開発事業、教育事業ともにメールの配信業務がありました。セミナーや案件に関する情報を発信するのですが、専用のシステムは入れておらず営業がBccで送っていたため非効率でした。それがSansanに名刺をスキャンすればそれぞれの差出人から一括で送れることとなり、大変反響が良かったんです。
懸案事項だった、システム開発事業と教育事業のバッティングも解消されました。それこそ以前は、SansanのCMのような「それ、早く言ってよ」ということがあったのですが、それはなくなりましたね。
データベースをひとつにしたかったのは、私の個人的な野望でもありました。当社は開発と教育の両方の事業を手がけているので、代表取締役から経営陣、人事、実働部隊のPMまで幅広く接点を持つことができます。また、商談や面談の場で得た生の情報は、当社にとっての財産です。2つの事業で統一した情報基盤を作ることがこの3~5年のうちに実現したい私のミッションだと思っています。
今年から、Sansanを活用したクロスセルにも取り組んでいます。組織を顧客カットでマトリックス化し、事業を横断したチームをつくりました。具体的に取り組んでいるのは、商談の際に他の事業領域の情報もできるだけヒアリングすること。特に、教育よりアポイントが取りやすい開発の商談を生かすことが課題でした。
そこで、開発の営業は商談に付随して採用枠、求めるスキルの有無までヒアリングし、Sansanに登録するルールをつくりました。この情報を教育事業の担当者が拾い、開発の営業に紹介してもらいアポイントに結びつけています。事前に採用や求めるスキルのことが分かっているので、商談がスムーズでムダがありません。
この連携によって、教育事業の商談が数%増えています。今後、ヒアリング内容を改善しきちんとした粒度と質のデータが揃うと、さらに多くの商談が生まれる見込みです。
クロスセルがうまく実現できたのは、当社がまだ部門制のフェーズだったこともあると思います。現在、営業部としての目標はみんなで追うスタイルをとっており、2つの事業が両方の目標をクリアしないと達成したとみなしていません。これが良い意味で協力する文化を生んでいます。これがもし、独立採算の事業部制やカンパニー制の組織だった場合、「双方のフィーをどうするか?」「その評価は?」といったことを、細かく取り決めなければなりません。組織の弊害が生まれる前にクロスセルに取り組めて、その文化的素地をつくれたことは、非常にラッキーだったと感じています。
また、IT業界自体がクロスセル向きだということもあります。当社の場合開発事業の人材を教育事業で育成することでしっかりタッグを組むと、より信頼の置ける欲しい人材を調達できます。そうすると支援しようというモチベーションが生まれるのです。教育事業のほうも、お客様に仕事が発生すると伴って教育のニーズが生まれます。開発事業が仕事をアサインすることで、「育成もお手伝いできませんか?」と振りやすくなります。だから、お互いに支援を渋る理由がないのです。
本質的に、IT業界でお客様によりよいサービスや価値を提供したいと考えれば、自然とクロスセルという発想になると思います。Sansanはそこにうまくハマってくれたと感じています。
導入初期から「使いやすくシンプルなUIを設計したい」と口にしていた田窪さん。メンバーを想いつつ成果に結びつけるための布石を打ち運用定着させたプロセスから深く学びました。メンバーの方に田窪さんがどんな方なのかお聞きしたところ、「良い距離感で見守ってくれる上司」とのこと。クロスセルの効果、また折を見てお話伺いたいです。
カスタマーサクセス部 田中