岩崎さん:もともとの現場のニーズとして、名刺を管理できるツールが求められていました。それぞれが表計算ソフトで手入力して名刺情報をまとめており、大きな負担となっていたためです。そこで当時、当社ではOCRベースのクラウド名刺管理サービスを導入しました。取り込んだ情報は電話帳として活用でき地図機能もあったため、名刺を探したり持ち歩いたりという手間が省け、一定の成果がありました。
しかしデータ化にあたって、別の課題が浮上しました。まず、OCRの精度の問題です。漢字はどうしても識別が難しく、毎回取り込んだ後に修正作業が発生していました。また、データが不完全なため、検索に引っかからないということもしばしばありました。ただ、アルファベットは比較的認識率が高かったため、どうしても探したい時は、「Eメールアドレスの最初が、たしか“ch”だったはず」というように、知恵でカバーしていましたね。なかには取り込んだ名刺の画像を見て、「写真管理」のように使っている社員もいました。
岩崎さん:このように個々人が知恵と工夫でサービスを活用していたのですが、どうしてもカバーできなかったのが、同じ企業でも「異なる企業」として登録されてしまうこと。OCR読み取りや手入力で正確に情報を登録したとしても、文字の半角空け違いなどで別の企業として認識されてしまったのです。名刺のデータ化はシステム部門が担当し、当時の顧客数はデータ上で3万ほどありましたが、“名寄せ”ができていなかったので、リアルな顧客数とは完全一致していない状態でした。しかし、それでも大量の名刺を持ち歩くよりはずっと効率的でしたね。そのためデータベースが整備されないまま、2年半ほど利用していたのです。
岩崎さん:そのようななか、グループ26社の持つ顧客情報を統合し、キーアカウントマネジメント*を強化するプロジェクトが立ち上がりました。その際、正確に取引先を把握するためには、相手から受け取る名刺以上に正しい情報はないという結論に至り、名刺情報をもとにしたデータベースを構築することになったのです。そこで、全社で一括導入する名刺管理サービスを再検討することになりました。
なかでもSansanを選んだのは、会社のデータが正確に名寄せされ、最新の情報に維持できるという点で、キーアカウントマネジメントに最適だと思ったからです。また、データ化の精度が高いという点もポイントでした。さらに、当社のIT部門が設けたセキュリティの要件を満たしていたことも大きな理由です。取り込まれた名刺の画像データは、容易には可読できない画像加工、暗号化の処理がなされています。実際にどのようにデータが保護されているのか、そのプロセスを検証できたことで導入にGOサインが出ました。
一括導入ということもあり、個人が持つ名刺をつながりの情報として、グループ会社間の連携に生かせるという期待もありましたね。
岩崎さん:若手社員はデジタル・ネイティブなため、Sansanも浸透しやすいだろうと想像できました。しかし製薬業界は古い体質の業界です。ベテラン営業のなかには、今もアナログに足で稼ぐ“ヒラメ筋”体質な社員も少なくありません。そのようななか新しいシステムを使ってもらうには、顔を合わせて「こんなこともできる」と根気強く説明していくしかありませんでした。
成田さん:導入初期には、Sansan社の導入支援担当による集合研修も活用しました。Sansanの画面を見ながら、リアルに使い方を説明してもらったので、利用シーンのイメージが湧きやすかったと思います。遠方の社員に関してはフォローアップ資料を配布し、導入を進めていきました。
岩崎さん:効果があったのは、アウトプットを見せること。特に顧客と、誰が・いつ・どのくらい接点を持っているのか、というような分析レポートを提示した時はインパクト大でした。これは、経営層の注目も集めたようです。このように、われわれからSansanの価値を提供することに努めていきました。
成田さん:このような推進活動を重ね、Sansanを活用したことで、顧客情報が把握できないという課題は解決されつつありますし、グループ内での情報共有も一気に進んでいます。以前は初めてお会いするお客様でも、すでにグループ会社と接点があり、「昨日もシミックさん来たよ」と言われるケースがよくありました。Sansan導入後は、組織ツリーを確認すると、誰が接点を持っているか、ひと目で確認できます。私の場合、新規顧客が多いのですが、事前に調べることで接点が多い社員もわかり、そこにより多くのお客様の情報が集まっていると推測できるのも効率的です。事前情報があるのとないのとでは、ファーストアプローチの質が全然違います。
また、つながりを可視化することで、お客様と全社的なつながりの強さもわかってきました。上層部から下層部までのパイプを確認し、「ここのつながりが弱いから一緒に同行する」というように、計画的につながりを強化することができています。重要顧客については、グループ内で接点のある社員を集めて、情報共有のミーティングも行われるようになりましたね。これらは、正確な情報が共有できるSansanを導入したからこそ、実現できたことです。Sansanが、まさにキーアカウントマネジメントの基盤になっていると感じています。
成田さん:今後はSansanの分析レポートなどを、組織マネジメントにも生かせるのではないかと考えています。例えば、新人指導などの際、あるお客様のアポイントがある時に、そのお客様の付近で接点の薄い取引先をピックアップして訪問を促したり、より効率的な訪問ルートを組み立てたりと、営業活動の効率化やパフォーマンスの最大化に役立てられるのではないでしょうか。
ビジネスの基本は、やはり人と人とのネットワークです。特に製薬業界は紹介による新規開拓がほとんどです。キーアカウントマネジメントのベースが整った今、個人同士のつながりを、組織としてより活用できる体制を目指していきたいと思います。
いつも和やかな雰囲気と爽やかな笑顔でスマートにご対応くださるお二人の、信頼関係の強さを改めて感じる取材になりました。導入から一年未満にも関わらず、既にキーアカウントマネジメントの中で戦略的にSansanをご活用いただいており、その手法は導入支援担当としても他社に紹介したいと強く感じる、勉強になるものでした。ですが、お二人が目指すところには、まだまだ道半ば。これからの更なる進化にも目が離せません。
カスタマーサクセス部 馬場