経済産業省の主な役割は、産業振興制度や税制の整備などを通じて、民間事業者企業のみなさんがビジネスを展開しやすい環境を作ること。その中で、私は大臣官房 業務改革課に所属し、省内の業務効率化に関わるさまざまな施策を推進しています。
我々がSansanを導入したのは2019年10月。当時、経済産業省では名刺などから得られる人脈情報の共有が満足にできていませんでした。そのため、政策立案のために接触したい企業や人物へのアプローチも非効率な状態でした。そこで、人脈情報の蓄積と共有による業務効率化を目的に、まずは本省職員を対象にSansanを導入しました。2021年には各地方に拠点がある経済産業局・産業保安監督部に利用を拡大し、現在ではおよそ5500人が活用しています。
Sansanの導入により、省内における情報共有をスムーズに行えるようになりました。また、こうした実感があるため、「人脈情報の蓄積」の意義も組織内に浸透させる素地が整ってきていると思います。
ただ、蓄積した人脈情報を充分に活用できているかというと、必ずしもそうではありません。たとえば、前述した政策立案のための外部とのやりとりについても、フル活用できているとはいえない状態です。これを打破するには、より多くの職員にSansanの機能とその可能性についての理解を促し、実際に活用してもらう必要があります。
そのために、私が推進担当になってまず取り組んだのが、Sansanの利用状況をデータに基づいてより詳細に分析することです。具体的には、利用ログそのものだけでなく、省内で保持している役職などの利用者の属性情報を突合させて分析しました。推進に向けて闇雲に仮説を立てるよりも、データを基に方向性を判断するのが得策と考えたためです。
実際に分析してみると、推進の足掛かりになるような大きな収穫がありました。まずは、Sansanを積極的に活用する、まさに「イノベーター」と呼ぶべき職員の存在が判明したのです。現在は、彼らの活用方法をヒアリングし、それらをあまりSansanを活用していない職員に共有しようと考えています。「とりあえず使ってください」と安直に推進するのではなく、事例を示すことで具体的なイメージを持てるので、活用のハードルを下げることができるはずです。
また、この分析を通じて、Sansanをあまり利用していない層がどのような属性の職員なのかというのも見えてきました。こうした傾向は、彼らにどうアプローチするかを判断する上で貴重な材料になっています。
また、イントラサイトの改修として、Sansanのアカウント申請や問い合わせ動線の見直しも行いました。具体的には、申請フォームの作成と設置です。それまでSansanのアカウント申請はメール経由で受け付けていたのですが、処理が定型化できておらず、手間がかかっていました。改善の結果、一部からは「使いやすくなった」という声も聞かれています。
加えて、イントラサイト上のSansanの省内利用マニュアルも見直しました。その際、経済産業省特有のユースケースを具体化するべく、金属業界を担当している金属課へのヒアリングや、前述のデータ分析で見えてきたイノベーター層へのヒアリングも行い、内容を反映させました。
実は私自身、推進者になる前はSansanをあまり使っていませんでした。というのも、当時はSansan で何ができるかについて簡単に把握できず、結果利用するモチベーションが湧かなかったからです。これは問題だと思い、同じような状況の職員をペルソナに、イントラサイトの案内をよりユーザーフレンドリーに改訂を進めました。
もちろん、推進活動を進める上で苦労もありました。そのうちの1つが、スマート名刺メーカー導入時のこと。現在、経済産業省では2025年に開催される大阪・関西万博に向け、準備を進めています。その中で、開催までの期間や開催中におけるPR活動やブランディングの一環として、大阪・関西万博デザインの名刺を作成しようと考え、スマート名刺メーカーを導入しました。
しかし、省内の多くの職員に利用してもらうとなると、関係各所を巻き込む必要があります。たとえば、作成した名刺を職員にどうデリバリーするか。経済産業省に届く郵便物は、まず受配を担当する課室に集められ、そこから各課室に配分される仕組みになっています。経済産業省には800以上の課室があるため、そうなると名刺の配送に一定のコストが生じてしまいます。ですので、効率的なデリバリー設計と、関係各所との調整を行ったうえで活用をスタートしたのですが、このときはかなり頭を悩ませました。
また、業務改革課ではSansanの活用推進だけでなく、ほかにも数多くの施策を実施しています。その中でSansan の利活用促進をいかに止めずに継続し続けていくかに苦心しました。
こうした苦労も含め、私がこれまでの推進活動で意識していたのは「ユーザーファースト」です。職員がもっとSansanを活用するためのコミュニケーションや、関係各所を巻き込み説得するには、こうした視点が非常に重要です。利用ログの分析も、ユーザーを詳細に知るという狙いから実行しましたし、その後の施策についても、どうしたら職員にSansanを活用してもらえるかを考え抜いた上で企画・実施しているところです。
ただ、ユーザーファーストな視点をしっかり持てたのは、私自身が推進者になる前、Sansanをあまり利用していなかったからこそ可能だったのだと思います。おかげで、あまり活用できていないユーザーに対して、何をどのように訴求すれば良いか、自分に照らし合わせて考えることができました。
今後のSansan活用については、引き続き人脈情報の活用を促進しつつ、さらに次のフェーズを見据えていきたいと考えています。
次のフェーズというのは、データ化しにくいアナログな人物情報の蓄積と活用です。アナログな人物情報とは「〇〇の分野に精通している」「〇〇の取組におけるキーパーソンである」といった情報のこと。電話番号やメールアドレスといった連絡先はすでにSansanに蓄積されていますが、こうした情報だけでは、実際にアプローチすべきかの判断には不十分です。アプローチに関する判断を、より簡単かつ精度高く行うためには、このアナログな情報が必要ですし、省内からも要望の声が上がっています。
そこで注目しているのが、Sansanのサービスの1つである Sansan Data Hubです。現在、Sansan Data Hub を利用して、適切な場所にアナログな情報を蓄積していくことで効果的なCRM が実現できるのではないかという仮説を立てたところで、今後これを検証できればと考えています。効果的な CRM を追求していくことは、現状の業務フローの変化を意味するため、ハードルも多々あると思います。しかし、目まぐるしく変化が起き続ける昨今、政策や経済にコミットする我々こそがまずは変化を受け入れ新しい価値観を作っていく必要があります。そのためにも、引き続きSansanのような CRMツールも起点にしつつ、変化を起こし続けていきたいですね。
「人脈」という資産を、省庁という特殊な業態でどう生かしていくべきか、さまざまな角度から調査・分析を試み、新しいチャレンジを繰り返されてきた宮本さん。ユーザー体験を具体的に想像することから次々と生み出される施策には、日々驚きの連続でした。より良い政策立案と、より良い経済社会を実現するために、まずは我々自身が変化を受け入れ新しい価値観を作っていきたい——取材中そう語る宮本さんの姿を思い出す度に、胸が熱くなります。
カスタマーサクセス部 鈴木