当社は、NECの100%子会社で、NECグループの社会ソリューション事業を担うソフトウェア会社として、ビジネスを進めてきました。ただ、クラウドやサブスクリプションなどの浸透により、ビジネスは大きく変わろうとしています。今はまだシステムエンジニアリングの仕事が豊富にありますが、いずれ減っていくのは目に見えています。そこで、これまでの事業形態に加えて、弊社独自の自主事業を成長させていく経営判断が下りました。
ただ、もともとはものづくりの会社だったため、マーケティングの知識や経験を持つ、専任の組織はありませんでした。事業部や営業部門の中に販売促進部隊もいたのですが、それぞれが独自のやり方をしているなど、決して効率はよくありませんでした。そこで、2018年4月にマーケティング推進本部が発足され、各部署にいた販売促進部隊もそこに集約。私は2016年秋にこの会社に加わり新規事業開発を担当していたのですが、マーケティング部門の発足を機に、デジタルマーケティングをリードすることになりました。
私が入社した当初のお客様へのアプローチ方法ですが、BtoBマーケティングの基本ができているとは言い難い状態でした。良くも悪くも技術屋の会社で、個々に思いついたことをやっているという感じだったのです。この状況を見て、これまでのキャリアの経験上、正しいマーケティングに取り組めば絶対に結果は出ると確信していました。
しかし、社員が全国1万3000人の会社で各地域に営業部門がある中、完璧で巨大なプロセスを作ってからスタートしようとすると、あっという間に数年はたってしまいます。そこで、スモールスタートから徐々に広めていくスタイルを目指しました。まずは、複数のプロモーションが走っている中で、課題を抱えている営業メンバーを見つけます。そして「われわれと一緒にやってみませんか?」と声をかけ手厚くサポートしていくのです。そのプロセスでロジカルなKPIを立て、改善を目に見える形で記録し、実績を積み重ねていくことにしました。
展示会でSansanを活用したのも、スモールスタートの一例です。展示会は、大きなものであれば約3000枚もの名刺を獲得することができます。しかし、名刺をデータ化するだけでも時間がかかり、データ化が終わった後には、営業が回収したアンケートとひも付けをするなどいくつかのフローがありました。そのため、フォローするまでに1カ月はかかっていたのです。また、フォローは営業のマンパワーに依存しますので、約3000件ものリードをフォローするのは物理的に不可能でした。そこで、「1週間以内にフォローを開始できるアイデアがある。マーケティングに名刺情報を預からせてほしい」と提案。すると、大きな抵抗なく協力を得られました。
私たちは、展示会場にSansanスキャナを持参し、交換した名刺はその場で即時データ化しました。このデータをMAツールと連携させ、次の日までにお礼メールを送信します。開封者には、即時でインサイドセールスを実施。レスポンスがよい場合は営業に引き継ぎ、その後のフォローを任せました。
この取り組みによって、これまでほとんど見られることのなかったメールの開封率は50%に。営業は約1週間でフォローが開始できるようになりました。結果として、展示会終了から90日間で、約1億円分の案件を創出できたのです。そのような取り組みを継続的に行い、またその効果を定量的に測定して社内に説明することで、デジタルマーケティングの有用性を浸透させていきました。結果的には、2年間で案件創出数、金額ともに2.5倍に成長させることができました。
ツールとしてSansanを選んだのは、数多くの企業が採用しており信頼できると考えたからです。Sansan Data Hubによって、顧客情報をデータクレンジングできることも理由のひとつでした。実は後者の方が、名刺情報のデータ化よりも求めていたことでした。というのも、倍々に増加していくマーケティングリードの管理にとても苦労していたからです。また、帝国データバンクに対応している点もポイントでした。
本格的にデジタルマーケティングを行おうとすると、マーケティングリードの情報に加えて、帝国データバンクなどのデータと組み合わせたり、部署や役職などのカテゴライズをしたりする必要があります。また、データのゆらぎを無くすためにクレンジングを定期的に行う必要があるのですが、人力では対応に時間がかかり、かつ精度も悪い。これらの問題を何とかする必要がありました。
具体的には、これまでSalesforce®にデータを手入力していたのですが、データに“歯抜け”や“ゆらぎ”が相当数あったのです。さらに、このメンテナンスに毎月35時間を要していたため、もうこれ以上人力では無理だと判断。Sansan Data Hubを利用することを決めました。導入後は、Sansanにインポートした名刺情報をもとにSalesforceのデータを補完し、古い情報のアップデートや部署カテゴリ、役職カテゴリの付与を実現できました。
加えて、帝国データバンクのデータを自動でひも付けられたことも非常に大きかったです。それによって、顧客情報がリッチになり「今回は建設系のこの部署にDMを打とう」など、よりターゲットに照準を合わせた、精度の高いマーケティングをできるようになりました。
以前はデータ補完のために、月に35時間の人手をかけていました。外注を試みたこともあります。Sansan Data Hubの導入後は、月12時間ほどの作業でデータ補完が完了しています。これは年間に換算すると、276時間の時間を削減できていることになります。人手を減らしてデータの精度が上がるのは、素晴らしいの一言に尽きます。
また、部署カテゴリの付与率は27.2%から80.3%に、役職カテゴリは23.4%から93.3%にそれぞれアップしています。帝国データバンクのコード付与率も69.1%から92.8%となり、これらの成果は想定以上でした。
このようにして、2年間にわたりマーケティングの仕組みを劇的に進化させ、大きな成果を上げてきました。これをDXと呼ぶのであれば、そうなのかも知れません。少しずつ積み上げた成果をプレゼンテーションした役員会議では、自然と拍手が起こりました。これは初めてのことだったそうです。間違いなく、社風を変えるような一手になったと感じています。
デジタルマーケティングに関しては、まだまだ道半ばです。むしろ、達成感を持ったらおしまいだと考えています。特に、コロナ禍の今の状況でデジタルシフトできなかったら、大企業と言えど生き残ることはできないと思います。例えば、これまでは展示会などのアナログ施策に頼っていた部分が大きかったのですが、どんどんデジタルにシフトしていかないといけません。社内には、「過去の常識、成功体験は捨てよう」と、激を飛ばしています。
実際、2019年度下半期からは、ウェビナーによる集客や、インサイドセールスからオンライン商談へつなげるプロセスづくりなどを進めています。将来的には大規模なオンラインカンファレンスを自社で開催し、大量のリードを集められないかといったアイデアもあります。また、これまで蓄積した人脈へ、Sansanを活用しアプローチできないかということも検討しています。こういった取り組みを行うのは、決して私が新しいことが好きだからという訳ではありません。やらないと、生き残れないのです。立ち止まるわけにはいかないのです。常に危機感を持っているのは、臆病なんでしょうね、きっと。
実績を示しつつ、しっかりと言葉に力を込めてお話される飯島様。定量面・定性面の両面で社内にメリットを伝えたからこそ、いわゆる「大企業」でも2年という期間で変化を起こせたのだと思います。「コロナ禍、このままの営業プロセスでいいのか」と感じている方へ、気付きを与えてくれる事例になっているのではないでしょうか。
カスタマーサクセス部 青山